猫の癌(がん)とは?猫に多い癌の症状や治療を獣医師がやさしく解説

猫の癌(がん)は、高齢になるにつれて発症リスクが高くなる病気です。

「猫の癌の症状は?」「治療はできるの?」「余命はどのくらい?」

こうした疑問や不安を持つ飼い主さんに向けて、本記事では猫の癌についてわかりやすく解説します。

床に横になる猫イメージ
※写真はイメージです

猫の癌とは

癌(がん)とは、体の中の細胞が何らかの原因で異常に増え続けてしまう病気です。
猫でも人と同じように、さまざまな種類の癌が発生します。

「癌と聞くと、もう助からないのでは…」
そう感じる飼い主さんは少なくありません。

しかし実際には、

  • ・早期に見つかる癌
  • ・進行がゆっくりな癌
  • ・治療やケアによって穏やかに過ごせる癌

も多く存在します。
大切なのは、正しく知り、必要以上に怖がらず、その子に合った選択をすることです。

猫の癌の主な種類

猫にみられる癌はさまざまですが、動物病院で比較的よく遭遇するものには、次のような種類があります。

リンパ腫

血液やリンパ系の細胞から発生する癌です。消化管、胸腔内、鼻腔など、体のさまざまな場所にできます。

乳腺腫瘍

主に雌猫にみられ、悪性である割合が高い腫瘍です。しこりとして気づかれることが多く、早期発見が重要です。

扁平上皮癌

口の中、鼻、耳、皮膚などに発生します。口腔内の場合、食欲低下やよだれが目立ちます。

肥満細胞腫

皮膚や内臓にできる腫瘍です。猫では比較的おだやかな経過をとることもあります。

線維肉腫(注射部位肉腫)

皮膚や皮下にでき、注射接種部位に関連することがあります。周囲に広がりやすい性質があります。

腺癌

消化管、肺、膵臓などに発生します。初期症状が出にくいこともあります。

骨肉腫

骨に発生する癌で、歩き方の異常や痛みがきっかけで見つかることがあります。

脳腫瘍

けいれん、性格の変化、歩行異常などの神経症状で気づかれることがあります。

猫の癌は、種類によって性質や治療方針が大きく異なります。

猫の癌で見られる症状チェック

猫は不調を隠すのがとても上手な動物です。
次のような変化が続く場合は注意が必要です。

  • ・食欲が落ちた、食べ方が変わった
  • ・体重が減ってきた
  • ・元気がなく、寝ている時間が増えた
  • ・口臭が強くなった、よだれが増えた
  • ・体にしこりがある
  • ・嘔吐や下痢が続いている
  • ・呼吸が荒い、咳が出る

「年のせいかな」と思われがちな変化の中に、癌が隠れていることもあります。

リビングの椅子のそばに座る猫のイメージ
※写真はイメージです

猫の癌の原因とは

猫の癌の原因は、まだ完全には解明されていません。
ただし、次のような要因が関係すると考えられています。

  • ・加齢
  • ・猫白血病ウイルス(FeLV)などの感染
  • ・遺伝的要因
  • ・慢性的な炎症

ひとつの原因だけで発症するわけではなく、複数の要因が重なって起こると考えられています。

猫の癌の診断方法

猫の癌は、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。

視診・触診

体全体を丁寧に診察し、しこりや痛み、口の中の状態などを確認します。

血液検査

貧血や炎症、臓器の状態を調べ、治療が可能かどうかの判断材料にします。

レントゲン・超音波検査

胸やお腹の状態を確認し、腫瘍や転移の有無を調べます。
超音波検査では、内臓を詳しく観察し、細胞検査の目安にもなります。

細胞診検査・組織検査

腫瘍が疑われる場合、細胞や組織を採取して調べます。
癌の確定診断に最も重要な検査です。

CT検査・MRI検査

CT検査では腫瘍の広がりや転移を詳しく評価できます。
MRI検査は脳や脊髄、神経の評価に優れており、神経症状がある猫では重要です。

遺伝子検査・特殊検査

腫瘍の性質を詳しく調べ、治療方針の参考にする場合があります。
※すべての検査が必要なわけではなく、猫の負担を考慮して選択します。

猫の癌の治療方法

猫の癌の治療は、「この治療をすれば正解」というものではありません。
腫瘍の種類や進行度だけでなく、

  • ・猫の年齢や体力
  • ・性格(通院や投薬が得意かどうか)
  • ・ご家族の考えや生活環境

を踏まえて治療方針を決めていきます。

当院では、治すことだけを目的にせず、その子らしい生活を守ることを大切にしています。

外科手術

腫瘍を取り切ることが可能な場合、外科手術は有効な治療選択肢となります。

  • ・根治を目指せる可能性がある
  • ・痛みや不快感の原因を取り除ける

といったメリットがありますが、全身麻酔が必要になるため、事前検査を行い、リスクと得られる効果を慎重に判断します。

抗がん剤治療

抗がん剤治療は、特にリンパ腫などの血液系の癌で選択されます。

猫では、人で想像されるような強い副作用が出ることは比較的少なく、食欲や元気をできるだけ保ちながら、日常生活を大きく崩さないことを目標に行います。

放射線治療

放射線治療は、

  • ・完全摘出が難しい腫瘍
  • ・局所に限局した癌
  • 脳腫瘍など、外科手術が困難な部位の腫瘍

に対して検討される治療法です。

腫瘍の縮小や進行抑制を目的とし、神経症状の改善や痛みの軽減が期待できる場合もあります。

分子標的薬

近年では、腫瘍の性質に合わせて作用する分子標的薬が使われるケースもあります。

すべての癌に適応があるわけではありませんが、選択肢のひとつとして検討されます。

対症療法・緩和的治療

癌そのものを治すことが難しい場合でも、痛み止め、食欲増進剤、吐き気止め、点滴や栄養管理などにより、少しでも楽に過ごせるようサポートします。

経過観察という選択

進行が非常にゆっくりな癌や、高齢で治療の負担が大きい場合には、積極的な治療を行わず、必要なケアを続けながら見守る選択もあります。

猫の癌 当院の治療方針

当院では、猫の癌治療において「治すこと」だけを目的にしていません。

とくに痛みに対しては、我慢させることがないよう、軽い鎮痛剤から必要に応じて医療用麻薬まで幅広く使います。内服が難しい子には、口腔粘膜から投与する薬や座薬、シールのように皮膚に貼って3〜4日効果が続くパッチ剤を選ぶこともあります。

食欲が落ちている子、口の病気でうまく食べられない子には、食欲増進剤だけでなく、経鼻食道カテーテルや経食道カテーテル、胃瘻などを積極的に検討します。これらは「延命のため」ではなく、できるだけ自宅で、家族のそばで過ごせる時間を増やすための選択です。

必要に応じて、自宅での点滴やケアについてもご相談しながら、その子にとって無理のない形を一緒に考えていきます。治療の形は一つではありません。その子らしい時間を守ることも、私たちが大切にしている医療です。

飼い主にかわいがられる猫のイメージ
※写真はイメージです

猫の癌の余命と緩和ケア

猫の癌の余命は、種類や進行度、治療の選択によって大きく異なります。
治療が難しい場合でも、

  • ・痛みを和らげる
  • ・食事を楽しめるようにする
  • ・安心して過ごせる環境を整える

といった緩和ケアによって、穏やかな時間を過ごすことは可能です。

当院の症例について

肥満細胞腫

症例は12歳の男の子の猫ちゃんで、おでこにデキモノがあるとのことでした。

針吸引生検(FNA)にて皮膚肥満細胞腫と診断しました。

猫の皮膚肥満細胞腫は良性の経過をとることが多く、相談の上経過を追っていくこととしました。

その後、一年経過し緩徐に増大してきたため、切除手術を行いました。

猫の肥満細胞腫は顔にできることが多く、大きくなってからの手術では表情や外貌の変化などが起きることが考えられます。
そのため良性であっても拡大傾向があるときには手術を選択いたします。

幸い、術後は大きな合併症などなく、再発も見られていません。

乳腺腫瘍

症例は11歳の雌の猫ちゃんで、おなかにしこりがあるとのことでした。

乳腺部分に5mmのしこりがあり、FNAにて乳腺腫瘍を疑う細胞が多数採取されました。

避妊手術は済んでいますが、元ノラ猫ちゃんのため成猫で保護されてから避妊手術を行ったとのことでした。

猫の乳腺腫瘍はその多くが悪性であり、発見した際には積極的な手術がその後の余命に影響します。

飼い主様と相談の上、片側乳腺切除術を実施し、2年が経過しますが再発転移は認められていません。

早期の避妊手術は乳腺腫瘍の発生率と大きく関係します。
できるだけ1歳未満での避妊手術をお勧めします。

鼻腔リンパ腫

症例は15歳の雌の猫ちゃんで、風邪の症状が改善しないとのことで転院されてきました。

一見すると猫カゼの症状ですが、経過が長かったためレントゲンを撮影させていただきました。

レントゲンでは右鼻腔の不透過性が亢進しており、鼻腔内腫瘍を疑いました。
また、鼻汁を顕微鏡で観察したところリンパ腫を疑う細胞が多数確認されたため、鼻腔リンパ腫を疑い、大学病院を紹介させていただきました。

麻酔下でのCTと組織生検の結果、高悪性度の鼻腔内リンパ腫と診断し大学病院にて放射線治療を行いました。
放射線治療後は皮膚のただれ、ドライアイなどの放射線障害が認められましたが症状は軽快しました。

その後一年が経過しましたが、再発はなく完全緩解を維持できております。

猫の癌に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 猫の癌は治りますか?

A. 癌の種類や進行度によって異なります。早期発見・治療で治癒が期待できる場合もあります。

Q2. 抗がん剤治療は必須ですか?

A. 必ずしも必要ではありません。手術や経過観察、緩和ケアを選択する場合もあります。

Q3. 猫の抗がん剤治療はつらいですか?

A. 多くの場合、人ほど強い副作用は出にくく、生活の質を保ちながら行います。

Q4. 高齢の猫でも治療できますか?

A. 年齢だけで判断することはありません。体力や状態に合わせて治療方針を決めます。

Q5. 治療をしない選択は間違いですか?

A. いいえ。緩和ケアを中心に過ごす選択も、立派な治療方針のひとつです。

猫の癌まとめ|早期発見と後悔しない選択のために

猫の癌は決して珍しい病気ではありません。
ですが、正しく知ることで、不安は軽くなり、選択肢は広がります。

  • ・早めに気づくこと
  • ・無理をしない治療選択
  • ・迷ったら相談してよい

猫の癌は、早期発見や適切な治療、緩和ケアによって、その子らしい時間を大切に過ごせる可能性があります。
少しでも気になる症状があれば、早めに動物病院へご相談ください。

監修:ひとみ動物病院 院長/獣医師 人見 隆彦

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