がんは犬にとって今も深刻な病気です。その中でも「膀胱がん」は、早期発見と適切な治療が求められます。
「膀胱がん」は初期症状が膀胱炎と判別しづらいため、知らないうちに進行してしまうことも少なくありません。そのため知識や理解を深め、兆候を見逃さないことが大切です。
この記事では、犬の膀胱がんに関する症状や最新の治療方法まで詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。

1. 犬の膀胱がんとは?
犬の膀胱腫瘍は、膀胱内に腫瘍ができる病気で悪性か良性かによって対応が異なります。
症状が進行するまで飼い主様が気づきにくい場合があり、特徴を理解する事が大切です。
ここからは膀胱がんの特徴を解説していきます。
1.1 悪性腫瘍
悪性腫瘍の場合「移行上皮癌」が多いです。犬の膀胱がんの中で最も多く、膀胱内の細胞が異常増殖することによって発生します。進行すると膀胱の内壁を破壊し、血尿や排尿困難を引き起こすため、愛犬にとって深刻な状態となります。また、移行上皮癌は進行すると転移する可能性が高く、腎臓や周辺のリンパ節や肺に悪影響を及ぼします。
そのため、飼い主様としては初期の症状を見逃さないことが大切です。
排尿時の違和感や頻尿、血尿などの兆候があれば、早めの動物病院受診をお勧めします。
悪性腫瘍と診断された場合は、獣医師に治療計画を作ってもらってください。
愛犬の状態を考えて、手術や抗がん剤などの積極的な治療や緩和など最適な方法を選択しましょう。
1.2 良性腫瘍
良性腫瘍とは、悪性腫瘍に比べて進行が遅く、転移のリスクはありません。
このタイプは、健康診断や別症状の検査中に偶然発見されることが多いです。症状は比較的軽度であり、軽い排尿困難が主なサインとなります。
しかし、進行する可能性や、膀胱に悪影響を与える可能性があるため、腫瘍のサイズや位置によって摘出手術を提案される場合もあります。
2. 犬の膀胱がん【症状と特徴】
犬の膀胱がんは、早期発見が命を救うポイントです。初期症状は見過ごされがちですが、頻尿や血尿などの兆候が見られる場合、早めの相談を心掛けてください。
ここでは初期から末期までの症状を説明し、日常で注意すべきポイントをお伝えします。
2.1 初期症状
犬の膀胱がんの初期症状は、頻尿、血尿、排尿時の違和感が挙げられます。これらの症状は膀胱炎などの軽度な病気と間違われることが多いため、見逃されやすいです。
例えば、トイレの回数が急に増えたり、排尿後もそわそわしたりする行動は病気のサインである可能性があります。
排尿習慣に少しでも違和感を覚えた場合は、動物病院への相談を考えましょう。初期症状の段階であれば、治療の選択肢も広がり、愛犬への負担も抑える事ができます。
2.2 末期症状
末期症状は、犬の体調が急激に悪化し、尿がほとんど出なくなる、元気がない、食欲が極端に低下するなどの深刻な状態に陥ります。これらの症状は、腫瘍が尿路を塞いでしまうことで起こり、早急な対応が必要です。 たとえ「年齢のせいで元気がない」と感じても、実際には病気が進行している可能性があります。
末期の段階では治療そのものが難しいケースもありますが、適切な緩和ケアを行うことで苦痛を和らげることができます。
2.3 進行速度やその他の症状は個体差によって異なる
膀胱がんの進行速度や症状の出方には個体差があります。老犬や小型犬では進行が早い場合があり、症状が現れてから急激に悪化することも少なくありません。 一方で、進行がゆっくりなケースもあります。日頃から愛犬の排尿パターンや食欲、活動量などを観察し、わずかな異変も見逃さないことが大切です。
3. 犬の膀胱がんの原因とは?
犬の膀胱がんの原因は、遺伝や環境、年齢が影響します。また、特定の犬種では遺伝的リスクが高い場合があります。これらの要因を理解し、コントロールをすることが大切です。
3.1 遺伝的要因
特定の犬種では膀胱がんのリスクが高い傾向があります。例えば、スコティッシュテリアやビーグル、シェルティなどがその代表です。これらの犬種では、遺伝的な特徴が細胞の増殖を引き起こしやすくなるといわれています。そのため、これらの犬種を飼っている場合は、より注意をしましょう。
3.2 年齢要因
高齢になるほど膀胱がんのリスクが高まることがわかっています。特に7歳以上の犬では、細胞の修復機能が低下し、異常な細胞が増えやすくなります。高齢犬は、定期的な検査を心がけてください。
4. 犬の膀胱がんの診断方法
犬の膀胱がんは、正しく診断できるかが重要です。 症状が膀胱炎や他の病気と似ているため、詳細な検査が必要です。
4.1 獣医師による検査の流れ
初期段階では、頻尿や血尿、排尿時の異常などの問診を行い、その後具体的な検査として尿検査や血液検査、超音波検査が行われます。
超音波検査で腫瘍の位置や大きさを視覚的に確認します。この段階で腫瘍が疑われた場合、詳細な画像診断や追加検査を提案されることが一般的です。 これらの検査は、愛犬への負担を最小限に抑えつつ行われます。検査結果をもとに、次の診断プロセスへと進みます。
4.2 確定診断のプロセス
膀胱がんの確定診断には、病理検査(細胞検査)が必須で、腫瘍の正確な特定をします。具体的には、腫瘍部分から細胞を採取し、悪性度や進行具合を調べます。また必要に応じてCTやX線検査で腫瘍の広がりや転移の有無を確認し、カテーテルによる吸引生検や内視鏡による生検診断をおこないます。
超音波検査、レントゲン検査を行い、他の臓器への浸潤や転移の有無を確認して、治療の選択肢を的確に判断できるようになります。診断結果を基に、獣医師から手術や抗がん剤治療、放射線治療、または緩和ケアの提案が行われる流れです。確定診断のプロセスを通じて、飼い主様は病気の全体像を理解し、愛犬に最適な治療を選べるようになります。
5. 犬の膀胱がんの治療方法
膀胱がんの治療方法は、愛犬の状態により複数の選択肢があります。
症状や進行度、体力に応じた方法を選ぶことが大切です。
5.1 外科治療
外科治療は手術を行います。腫瘍が膀胱内に限定されている場合、手術によるがん切除が第一の選択肢となります。しかし、手術には全身麻酔が必要なため、高齢犬や持病を抱えている場合はリスクを伴います。
腫瘍の位置や進行度によって、手術の成功も左右されるため、事前に獣医師と十分な相談をすることが大切です。 また、術後のケアとして適切な栄養管理や感染症予防が欠かせません。実績のある動物病院で手術を受けることで、治療効果を高めることができます。
5.2 内科治療
内科治療は抗がん剤などの投与を行います。抗がん剤だけでは完全な寛解(がんの消失)は難しいケースが多いです。ただし、手術や抗がん剤治療や他の治療を適切に組み合わせることで、腫瘍の進行を遅らせ、症状をコントロールすることが可能です。
5.3 緩和療法
緩和療法は、進行した膀胱がんの痛みや不快感を軽減し、犬の生活の質を向上させるための治療法です。腫瘍を直接治療することは難しい場合でも、鎮痛剤や食欲を増進させる薬を使うことで、愛犬が穏やかに過ごせるよう支援します。 さらに、栄養バランスを考えた食事の見直しや、飼い主様の温かいサポートが、緩和療法の効果を高めます。
6. ひとみ動物病院の治療方法
膀胱腫瘍の治療には、内科治療と外科治療があります。内科治療は各種抗がん剤などを用いて腫瘍のコントロールを目指します。手術を行わないため、体の負担は大きくありませんが、定期的な通院が必要です。
抗がん剤治療には、吐き気や下痢、食欲不振などの副作用が出る可能性もあるため、症状に対するケアも必要になります。
治療薬は、「ミトキサントロン」と「ピロキシカム」を組み合わせた方法が最も成績が良く、生存期間中央値が350日で約1年となっています。しかし、近年東大から発表された論文で分子標的薬「ラパチニブ」を用いた治療で生存中央値が435日とあり、今後注目される治療であると考え、当院でも取り入れております。
ピロキシカムは、非ステロイド系消炎鎮痛剤(イブ・バファリン・ロキソニンなどの仲間)ですが、膀胱腫瘍に対する抗腫瘍効果も認められており、生存期間中央値195日、単独でも20%の患者さんが1年以上生存すると言われています。
一方、外科治療は手術を行います。手術には2つの方法があり、腫瘍のできている部分を取り除く膀胱部分摘出と、腫瘍を含め膀胱全部を摘出する膀胱全摘出があります。
部分摘出は、腫瘍の周り約1〜2センチを余白として切除する方法で、体の負担は小さいですが、腫瘍の再発などのリスクが伴います。
また、部分摘出の適応は膀胱の先端部分など腫瘍の位置が重要です。術後は膀胱が小さくなるため頻尿になりますが、1〜2ヶ月程度で改善してくることが多いです。
膀胱部分摘出のみでは約1年、ピロキシカムを併用する事でさらに伸びる可能性があります。
膀胱全摘出は膀胱を全て摘出する手術です。ただそれだけでは尿が出なくなるため腎臓と膀胱をつなぐ尿管の出口を改めて作る必要があります。オスなら包皮、メスなら子宮・膣に尿管移設が必須となります。そのため、手術・麻酔時間が長時間になるため、体への負担も大きい手術です。
また、排尿のコントロールができなくなるため、皮膚のケアやオムツなどが必要になります。長期の生存も報告されておりますが、生存期間中央値は6〜12ヶ月で、現時点では不明な点も多く、今後に情報が増えることでまた違った成績が得られる可能性もあります。
6.1 当院院長の資格
当院(ひとみ動物病院)院長の人見は、日本獣医がん学会の腫瘍認定医としての資格を保有しています。認定医を取得した後、麻布大学附属動物病院で腫瘍科専科研修医もしていました。
特に、がん治療を得意としており、年間100頭近くの診療実績を持っています。また、がん治療で大切なのは、正しい診察と治療です。専門性の高い資格と豊富な臨床経験によって、最善の治療を提供し、諦めない治療を心がけています。

6.2 専門家と連携したチーム治療
さらにひとみ動物病院では、各医療の専門家と連携することで、最適な治療を提供しています。例えば、麻酔の専門医と連携をすることで、麻酔によって亡くなってしまうリスクのある手術をより安全に行う事ができます。
このように診断から治療までのプロセスにおいて、専門家の知見を活かすことで、より最適な計画を立てる事が可能です。このようなチーム医療により、飼い主様と動物たちに負担の少ない治療を提供する事が、ひとみ動物病院の強みとなっています。
7.犬の膀胱がんの治療費目安
治療費は診断方法や治療選択によって異なりますが、心の準備として目安をお伝えします。診断から治療に至るまでの各段階で費用が発生するため、それぞれの内容を把握することが大切です。 以下では、犬の膀胱がん治療にかかる具体的な費用を詳しく解説します。
7.1 診断にかかる費用
犬の膀胱がんを診断するためには、超音波検査や尿検査、細胞診(良性か悪性か見分けるための検査)などが行われます。これらの検査はそれぞれ費用がかかり、総額で5〜10万円程度が一般的です。CTやMRIといった精密機器を使用する検査の場合は、10~15万円かかることもあります。
7.2 外科手術の費用
手術費用の目安は30万円前後で、腫瘍の大きさや位置、手術の難易度によって変わります。完全な腫瘍切除が可能であれば、犬の生活の質を大幅に向上させることが期待できます。ただし、術後のケアや経過観察も大切で、その分の追加費用も視野に入れる必要があります。
7.3 緩和治療の費用
膀胱がんによる苦痛をフォローする緩和治療では、月に2〜3万円程度が目安とされています。主に痛み止めや栄養補助食品の費用となります。
8.犬の膀胱がんの予防方法
犬の膀胱がんを予防するためには、日常生活の中で健康を維持し、早期発見を心がけることが大切です。 飼い主様が愛犬の体調や行動の変化を敏感に察知し、適切なケアを行うことで病気のリスクを減らせます。
8.1 早期発見のための定期検診
定期検診は膀胱がんの早期発見において欠かせません。特に高齢犬やリスクが高い犬種の場合は、半年に一度の健康診断をお勧めします。 健康診断では超音波検査や尿検査を実施し、病気の兆候を見逃さないようにします。
また、定期的に獣医師と相談しながら、健康管理のプランを考えることも大切です。
無症状でも健康診断で見つかることが多く、シニアのわんちゃんではおすすめしております。
9.当院であった犬の膀胱がん症例
症例は12歳のダックスフンドの女の子で、健康診断での超音波検査で偶発的に膀胱腫瘍が発見されました。
症状はありませんでしたが、腫瘤は膀胱先端部でカリフラワー状に盛り上がり、尿検査では潜血反応が陽性でした。
飼い主様と相談の上、麻酔下でカテーテル吸引生検を実施し、膀胱移行上皮癌と診断しました。
また、同時に実施した超音波検査ではリンパ節への転移はなく、胸部レントゲンでは肺転移も認められませんでした。
上記により治療の選択肢として、膀胱全摘出と尿管移設、膀胱部分摘出、抗がん剤・ピロキシカムなどの内科治療を提案し、飼い主様の希望により腫瘍からできる限り距離を取りつつ膀胱を温存する膀胱部分切除術を実施しました。
切除後の病理組織検査では、膀胱移行上皮癌、完全切除との診断でしたが、再発・転移性の高い腫瘍であることから、術後ミトキサントロンとピロキシカムによる治療を継続し、診断後1年が経過しましたが再発転移は認められず良好に経過しています。
10. まとめ
犬の膀胱がんは早期発見が重要です。
膀胱がんの初期症状は膀胱炎と似ているため、そのまま放置せず早めに動物病院へご相談ください。早期発見によって治療の選択肢が広がり、愛犬にとって負担の少ない治療を選ぶ事ができます。
犬の膀胱がんに関する治療方法でお悩みの場合は、当院(ひとみ動物病院)へご相談ください。専門医としての知見と経験に基づき、最適な治療方法を見つけるお手伝いをさせていただきます。